写真   田中啓文


 そう。あれはいつだったか。もうぐりもうぐりもうぐり。きしゅきしゅきしゅ。帰宅途中いつも通る公園に、背丈三十センチほどの「娘生物」がいた。三つの団子を二本の串で縦に刺したような形状である。これからの時間帯、このあたりは危ない。地下のナメラ筋を通って「毒残念」や「エロ無念」が現れることがある。私は「こっちにおいで」と声をかけ、手招きもしたが距離が遠すぎて気づかないようだ。顔を見ると、恐怖のあまりレレレ状にこわばっているのがわかった。もしかしたらすでになにものかが近くにいるのだろうか。私は公園の左方に設置されているカサイドッパジクライズドメーターをちらと見て驚いた。3500グルを指している。たいへんな数値だ。あの「娘生物」はそんなにも高濃度のカサイのなかにいるのか。どうして逃げないのか理解できない。しかし、私には手が出せない。3500グルのカサイといえば身体のキュウやリュウやジュウがすべて溶け落ちるレベルだ。そして私はとうとう気づいてしまった。カサイドッパジックライズドメーターのさらに左側にある建造物の最上段に……やつがいた。「ヤバ妄念の息子」だ。不気味な触角を突き出し、前方脚の鋭い爪を出し入れしながら「娘生物」を見下ろしている。私は震えた。もうだめだと思った。なんそろぼぎあるそやみたじ……と念仏を唱えたりもしたが効果はない。しかし、そこに「戦士」が来た。戦闘用スティックを持った三人の「自愛の戦士」たちだ。彼らならあの「娘生物」をここから救い出してくれるだろう。牙を回転させながら、もうぐりもうぐり……と襲い掛かってくる「ヤバ妄念の息子」に、戦士たちはきしゅきしゅきしゅ、くっくくくく……とスティックを振り回す。きしゅきしゅきしゅ。きしゅきしゅきしゅ。くっくくくく。くっくくくくく。くっくくくくく。くっくくくくくくくくくくく。もうぐりもうぐりもうぐり。えべれすとあるこまいに、いべれっさぶ、じゅおしおんよおおおおおおおお。そして、ついに「ヤバ妄念の息子」は小さく萎んでいき、「るっ」と消滅した。るっ。るっ。るっ。るっ。るっ…………………………ああ、よかった。私は胸を撫で下ろした。しかし、それは甘かったのだ。カサイドッパジックライズドメーターを見ると、数値は4000を超えている。どういうことだ。うろたえる私の耳に、もうぐりもうぐりもうぐり……ぐめらぐめら……えっぐさいどえっぐさいど……という咆哮が聞こえた。「どこだ」「どこだどこだ」「あそこだ!」…………………………私も、「自愛の戦士」たちも気づいていなかったが、「邪念妻」がいつのまにか彼らの右手の宙空に出現してこちらを狙っていたのだ。「自愛の戦士」たちがスティックを向けようとするより一瞬早く公園は突然ハレーションを起こしたように白光の坩堝と化した。「妄念の息子」が臨界に達したのである。かーっかかかかかか。かーかか。かーっかかかかか。はれるや。はれるーーーーやーーー。すべては崩壊した……………………………………。
 ここで起きた惨事を後世に語り継ぐために建てられたのがカサイ臨界公園である。もうぐりもうぐりもうぐり……きしゅきしゅきしゅ……くっくく、くっくく、くっくく、、、,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,。







田中啓文
小説家

※第一回と、今回の第四回の写真からこの作品は書かれました。